いくつもの記憶が引っ張り出される『公園へ行かないか?火曜日に』【オススメ☆BOOK】

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最近発売された話題の本や永遠に愛される名作などから、キーワードに沿った2冊のイチ押し&3冊のおすすめBOOKをご紹介します。

【今月のキーワード】ページをめくるひととき、アメリカに暮らす

2016年、秋。柴崎友香はアメリカにいた。アイオワ大学のインターナショナル・ライティング・プログラムに参加して、アイオワで、旅に出たニューオーリンズやN.Y.で、異国の時間と言語が、生活が、「日常」に近づき溶けていくさまを見つめていた。《グーグルマップス》を頼り、写真を撮り、《夜になった道路》を歩いたり、博物館を訪れたり。世界33カ国から集まった作家たちと語りあい、語りきれぬままに言語について考えたり。そうして3 カ月を過ごした後に帰国し、その体験をもとに11の短編を書きつづったのが『公園へ行かないか? 火曜日に』だ。エッセイにも似たこの小説を読むうち、気づけば読者は、いくつもの土地を訪れるようにして、いくつもの「記憶」に立ち会っている。主人公・トモカの記憶に読み手の記憶が引っぱり出され、アメリカという土地の記憶と小説の記憶が混じりあって頭の中をいっぱいにする。描かれた時間は先へ進むと同時に、深く過去へものびていく。自分と世界の関係を変形させ更新してくれる、こんなにも強く愛おしい小説があるのだ。

【イチ押しBOOK1】柴崎友香さんの、『公園へ行かないか?火曜日に』

かつて《アメリカは、音楽や映画や小説のことで、ほとんどフィクションだった》と書く作家が、3 カ月の滞在で見出したアメリカの姿。現在と過去が重層的に描かれる小説集。(新潮社 ¥1700)

【イチ押しBOOK2】近藤聡乃さんの、『ニューヨークで考え中』

トモカがアンドリュー・ワイエスの『クリスティーナの世界』を見たMoMAで、アキノはモネの『睡蓮』を見る。2008年からN.Y.に住む近藤聡乃がWEBで連載するエッセイ漫画『ニューヨークで考え中』には、N.Y.の陽が差し、見知らぬ人に靴をほめられる驚きや蛍の美しさ、風邪の日のチキンスープの味が描かれている。生活の実感に彩られた日常のふとした瞬間が、透明な感性によって切り取られて、鮮やかなまま読者のもとへ届けられる。

漫画やアニメーションなどの分野で活躍する作者が単身渡米し、そのまま思いついて始まったN.Y.暮らし。ガイドブックに載った「憧れの街」とはひと味違う、小さな驚きや共感に満ちた日常を体感できるエッセイ漫画。(亜紀書房 ¥1000)

【オススメBOOKSはこの3冊】

『純喫茶とあまいもの』 / 難波里奈さん看板メニューを入口に、都内各所と近郊の喫茶店30店をめぐる一冊。パフェやクリームソーダの立ち姿にサンドイッチの断面、美しい意匠の数々も紹介しながら、小さな空間に満ちる空気を届けてくれる。(誠文堂新光社 ¥1600)
『こうしてイギリスから熊がいなくなりました』/ ミック・ジャクソンさん〈訳〉田内志文さん怪力ゆえに愛されたり、悪魔と恐れられたりした熊の姿を、ユーモラスに、ときに人間の姿を照射するように描く。《空想世界の深淵に潜》むように絶滅したイギリスの熊を想うための、美しい寓話を8編収める。(東京創元社 ¥1500)
『ほんのきもち』/ 朝吹真理子さんほか作家16人がつづる贈り物の話。おすそ分けに老舗の洋菓子、おかきに漬物etc.。エッセイに、短編小説に、漫画にこめられた「ありがとう」の気持ちがもうひとつの贈り物になる、幸せな構造のアンソロジー。(扶桑社 ¥1600)--------------------MORE2018年11月号・さらに詳しい情報は雑誌MOREをチェック! 原文/鳥澤 光---------------------♡11月号の試し読み・電子版の購入はこちら♡

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