
仕事を頑張ってきたあまり、半ば無意識で「愛とキャリア」を天秤にかけてきたという、女性のストーリー。アラフォー世代のキャリアは結婚の邪魔ではなく、実は糧になる?
(取材・文/ 芳麗)
30代は結婚より仕事を選んできた
「43歳の時に、やっと結婚しましたー!」
中谷ユリさん(仮名)はあっけらかんとした口調で、こちらを笑わせる。華も愛嬌もある美人で、ユーモアとサービス精神も旺盛だから、会話するほど引き込まれていく。
「40歳までは、“仕事と結婚”を天秤にかけていて、結局は仕事を取ってきたんだと思います。我ながら、ものすごく仕事を頑張ってきました。会社にいると、女性にとって30代後半あたりはキャリアの分かれ目なんですよね。やっと管理職適用が見えてきたりもして。今、ここでスピードダウンはできないなと」
ユリさんは都内の大学を卒業後、就職氷河期といわれた世代ながら、新卒で誰もが知る大手メーカーに採用された。以来、退職するまで20年以上勤務。頻繁な海外赴任をこなしながら、管理職にもついたパワフルなキャリアウーマンだ。
「入社時は、男女の給料差はないといわれていましたけど、古い会社なので、実際は『女はやめるリスクがあるから評価はやれない』というムードでしたね。どれだけ成果をあげても、同期入社の男性たちとは差がついていく。仕事は面白くも、その体制には悔しい思いもしていました」
バブル後の氷河期を生き抜いてきた現在の40代女性は、就職時から不況のあおりを食いながら、ダブルスタンダードに苦しんできた人が多い。「女性も自立して自由に輝く」といった新しい潮流は大きくも、「結婚と出産こそが女の花道」という旧来の価値観も根強く、その間に揺れてきた。
「20代の頃から、いつかは普通に結婚するのかなと思う一方、男性に依存して生きる女性にはなりたくないとも思っていました。そのためにも、まずは自立。仕事をやりきらなきゃって、必死でした。
これが10歳下の世代だと、ちょっと違う。会社も世の風潮に合わせて、幾人かの女性は最初から管理職にすること前提で採用していましたから」

ユリさんに、心境の変化が訪れたのは40歳を過ぎた頃。
「30代後半までは恋人も一応いたけど、彼と別れて迎えた40歳はさすがに辛かった。体の不調をはっきりと感じることも増えたし、いつかは結婚したいなんて悠長なことは言っていられないなと」
冷静に自分と世間を見つめ直したユリさん。多忙な仕事の合間を縫って、はじめはネット婚活に挑戦してみたものの、まったくうまくいかなかったという。
「サイト登録時は婚活素人らしく、自分の環境を基準に『年収800万以上希望』とか書いちゃったから、そう見つかるわけもなく……。それでも条件に合う人とデートしてみたんですけど、容姿も空気感もびっくりするほど想像とは違いました!」
そんな“ネット婚活あるある”の洗礼を浴びながら、ユリさんはここでいくつかの気づきを得た。
「私は、何歳になろうと条件より容姿に惹かれるんだなとか(笑)。結局、闇雲に出会いを求めるより、まずは自分を知ることが先決。求めるパートナー像を明確にしておくことが大切だとも気づいて。元彼のデータを一覧にして分析してみたり、婚活セルフカウンセリングしていました」

いちばん私に合う、パートナー探しの方法は……?
自己分析を重ねながら、断続的に婚活を続けていたユリさんに最大の転機が訪れたのは、42歳の時だ。
「とうとう“婚活マジモード”にスイッチが入りました。42歳になると、仕事はますます忙しく体もボロボロになっちゃって。あんなに仕事第一だったのに、初めて人生の優先順位が変わった。『仕事よりもライフ!』って切実に思ったし、 今なら、迷わず結婚できるなと。『これが私の適齢期だ』って。小ぎれいにまとめましたけど、要は結婚を理由に、ちょっと現状から逃げてラクしたかったんです」
今こそ人生を変えたい、そのためにパートナーが欲しい。そう切実に思ったユリさんは、ある友人に本気の婚活相談をすることに。
「私はもともと人に相談するタイプじゃないし、相手は誰でもよかったわけじゃなくて。相談したKさんは、年上女性で会社経営者。仕事はバリバリなのに、恋すると乙女で情にも厚くて、この人ならと。彼女のFacebookでかいま見る交友関係も素敵で私好みでした。士業などお堅い自営業の方が多くて、でも、皆さん遊び方はスマートで。常々この世界の中に、私も入りたいなと憧れていたんです。
そこで、Kさんに会えた時に『私は今、心から結婚がしたい。誰かと支え合って生きていきたい!』と泣きつきました。情に厚いKさんは『わかった。そんなに切実なら誰か探してみるわ』と」
「紹介してもらえた暁には、よほど変な人でないかぎり結婚しようと決めていました」とユリさん。出会う前から決めていたの?

信頼できる友人から紹介された、その人は……?
相談からわずか3日後、Kさんは紹介相手を見つけ出して、出会いの場をセッティング。約束の場に現れたのは、のちにユリさんの夫となる中谷ユウジさん(仮名)だ。
1つ年上の当時43歳、大手商社を辞めて自分の会社を立ち上げたばかり。ユリさんは、初デートから彼に強く惹かれた。
「ほぼ、ひと目惚れです。まず、見た目がかっこよくておしゃれで好みでした(笑)。仕事の話をした時に通じたのも大きかったですね。海外赴任の話をしたら、『僕も海外多いからわかる。大変だよね』と。これまで出会った男性は、同じ話をしても『へぇ、すごいね』と引いちゃう人が多くて、女性のキャリアに理解がなさそうでしたけど。彼はフラットに受け入れてくれて。大げさだけど、涙が出るほどうれしかったです」
しかし、出会って1カ月後、2人は真剣交際にいたる。
「メールのやり取りがおもしろくて、つい会いたくなるとは言ってました。一気に距離が近づいたのは、彼の海外出張中、頻繁にLINEをした時ですかね。経験上わかるんですけど、海外出張は意外と孤独。1人の夜は寂しいものだから、こちらもマメにLINEしたし、即レスできるよう彼の出張中は、私も夜の予定は入れないでおきました。その出張から彼が帰国した時には、空港にプレートを持ってお出迎えまでしたら、けっこうウケてくれてましたね」
そして、ユリさんは「私はあなたと結婚したい」と宣言する。
「かなり驚いていましたけど、そこで『結婚を前提に付き合おう』と言ってくれました。ただ、その後は、私からひと言も結婚をねだりませんでした。“武士に二言はない”じゃないけど、何度も言うと軽くなるし、女性から何度も言わせるような男じゃないと信じて(笑)」
実際、この思惑はズバリ当たった。
「最終決断は彼にまかせて、私はできるだけスムーズにコトが進むよう、さりげなく配慮して行動しました。具体的には、彼との予定はすべて最優先させるとか、2人の間で話し合いはしても大きくもめないとかね。あまりにも、スムーズに関係が深まるものだから、彼も『運命かな?』って」
会社を立ちあげたばかりだったユウジさんは、最初は結婚願望はあまりなかったという。それでも、ユリさんとの結婚に前向きになっていったのは、2人の関係が負担になるどころか、支えになったからに違いない。
「彼の仕事を応援したい気持ちは強くありましたね。私自身も仕事を本気で続けてきたから、理解できるところもあるし。うちは父も自営業者なので、彼のように自分の事業に挑戦している人を間近で見て心から尊敬していたんです。いつか結婚するなら、そんな男性の参謀みたいな妻になりたいって思っていました」
初夏に出会って付き合い始めた2人は、季節ごとに着実に仲を深めた。翌年のお正月、彼の家族に新年のご挨拶したことも後押しとなり、約半年で結婚にいたることに。
トントン拍子とはいえ、思慮も責任もある40代同士。結婚にあたって、迷いや障害はなかったのだろうか?
「もちろん、結婚前にいろんなことを話し合いました。まず40代としては、子供をどうするかは早めに考えないといけないなと。私は欲しいと思っていなかったけど、彼やご両親が欲しいというならば、頑張ろうと思っていたんです。でも、彼に聞いたら、『いなくてもいい』とあっさり。家を継がねばという思考もないし『自分の子どもとはいえ、キミの関心が僕以外の人間に向くのが寂しい』って真剣に(笑)」
照れも臆面もなく、嬉しそうに話すユリさん。

結婚、同居。さて仕事との両立は……?
結婚するにあたり、ユリさんがもう一つ、真剣に考えたのは、今後のキャリアについてだ。大切に積み上げてきたキャリアをどうするのか。
「結婚しても、キャリアを捨てる気持ちはなくて。彼の賛同を得ていたこともあり、結婚後も1年間は、会社員と主婦業との両立を図っていたんです。でも、無理でしたね。私、根が古風な上に完璧主義なんですよ。『夫が帰るまでには、夕飯を用意して待つ』を日々の命題にしていたんですけど。フルタイムの管理職会社員として、それをかなえるのは至難の業で。フレックスタイムを使って、毎朝5時出社、夕方4時に退社して。駆け足でスーパーに行って、ごはん作って、家事をして、日々ヘトヘトな生活でした」
ユリさんのInstagramをのぞくと、栄養バランス完璧で見目麗しい一汁三菜のごはんが毎日のようにアップされている。確かに、これではハードワークとの両立はむずかしい!
「年もあるかも。今の業務との両立は無理だなと思った時、夫が経営する会社で人手が足りないと小耳にはさんで。こちらに拾ってもらうことになりました」
20年以上勤務した会社を辞めることは不安や寂しさもあった。けれど、夫の会社で働くことは、予想以上に楽しかったという。
「小さな会社なので、あらゆる業務をこなさなきゃならないんですけど、日々、充実感がありますね。毎回、契約が取れた時や、プロジェクトが完成するたびに、夫やスタッフと手を取り合って大喜びして。まるで高校の文化祭みたいな達成感! 私もキャリアが長いので忘れかけていましたけど、本来、仕事の喜びってこういうところにあるんだよなと。
それから、初めての転職でもうひとつうれしかったのは、私ってわりと使える人間だと気づけたこと。ひとつの会社に長くいたので、外の社会に通用するのか、いまいち分からなかったんですよ。でも夫の会社では、翻訳から経理まで、いろいろやれる私は重宝してるみたいで、うれしかったです。元いた会社が私をジェネラリストに育てるべく、いろんな部署を渡り歩かせてくれたおかげだなと改めて感謝しています」

現在、結婚生活も4年目に突入。職場も同じになって、ほぼ24 時間一緒にいるものの「もっと、ずっと一緒にいたい」とユリさん。
「何をするにも2人で一緒が楽しいから。ほかの人付き合いとか必要なくて、2人とも会食とかの予定を極力避けてます」
恋も仕事もあまたの経験をして成熟した大人同士。仕事も生活もともにするベストパートナーでありながら、まるで10代のカップルのように互いに夢中の2人。
こんな40代カップルもいるから、人間って面白いし、人生は希望が持てる。
最後に、愚問ですが、結婚してよかったですか?
「もちろん! こんなにも愛を感じて甘えられる存在は、人生で初めてですから。それはやはり、契約と保証あっての慣れ合いのおかげかなって。もし、恋人関係のままだったら『この先はどうする?』が消えず、心を許しきれない部分もあったと思う。彼のことは、異性としても大好きだけど、今や親より兄弟よりつながっている家族だなと思っています。
すべてを預けられる愛するパートナーがいて、夢中で仕事を楽しめて……。ずっと理想だった人生を、今、送れている感じです」
42歳まで、キャリア第一で生きてきた。ゆえに適齢期はなかなか訪れなかったものの、大切に築いたキャリアがあったからこそ、最高に幸せなパートナーシップを得たユリさん。
年齢を重ねて得た知恵と経験は、パートナーとの間に新たな愛情をうみ、育てる糧になる。
43歳の結婚を起点に、まったく新しい人生が始まった。

芳麗 ● よしれい
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